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働くを考える

"仕事"は"タスク"ではない -正しい仕事の始め方-

「悪いんだけど、◯◯に関する資料を毎月作成してくれない?」

どこにでもある、企業や団体といった組織内での仕事が発生する1シーンかと思います。引き受ける側も特に何も疑問に思うこともないでしょう。しかし、リーンスタートアップの観点で見ると、重要な3つの要素が無いように思います。それは、顧客が誰で、彼らのどんな課題を解決するもので、その価値をどう評価するのか、です。

"仕事"は"サービス"である

「◯◯に関する資料作成」という"タスク"として仕事を捉えると、すぐさまどう情報を集めるか、どう資料にするか、さらにはどう自動化するか、といったソリューションに視点が移り、サブタスク作りと担当者のアサインが始まる傾向にありますが、誰のために、がはっきりしていないのに、どんな情報を載せるべきか、どんなフォーマットの資料が良いかなどは分かるはずもありません。ましてやまだ価値があるかはっきりしていないものを、高いコストをかけて完全自動化するなんて、冷静に考えれば無駄だと誰がみても分かるはずです。で、ありながらも、しばしば散見するケースのようにも感じます。さらに最悪なことに、初期こそ暗黙的に3つの要素を感じているものの、数年後、当初の担当者もいなくなった頃、タスクだけが引き継がれ、よくわからないけどやっているタスク、または"おまじない"タスクとして残り、それらはいつまでも消えることもなく、まさにゾンビのようなタスク、ゾンビタスクとしてフロアを彷徨いながら、メンバーの体力とモチベーションを奪っていくでしょう。誰にも求められず、喜ばれることもないそんな仕事を、毎日せっせとこなすことほど、ナンセンスなものはないです。

ではどうすればいいのか、それは上記の仕事を「◯◯に関する情報提供」というサービスとして捉えるのです。我々ではこれをサービス化やサービスナイズと呼んでいます。例えば、顧客を「◯◯に関わる管理職、スタッフ」、課題を「経営会議等で利用する資料がない」や「スタッフが外部で講演等をするときのオフィシャルな最新統計情報がない」と仮定し、評価の指標を「ダウンロードページの訪問ユーザ数」や「PDFファイルのダウンロード数」として捉えるのです。あとは指標から受け取るフィードバックを参考に、載せる情報を変えてみたり、資料のフォーマットを変えてみたりといった、ピポッドを繰り返しながら最良のサービスにアップデートしていきます。ダウンロード数といった誰でも判断可能な評価の指標があるので、あなたのこの仕事にどれだけの価値があるのか提示しやすいですし、仮にその指標が、はっきりと価値の無さを示しているのならば、潔く止めれば良いのです。そうすれば、ゾンビ化することもありません。

正しい仕事の始め方

あなたが管理職やリーダーならば、仕事を"タスク"として提示するのではなく、

「◯◯(誰)にとって、◯◯できるような(課題)資料って価値があると思うし、◯◯(主要な指標)で計測もできると思うんだ。」

のようなサービスの仮説として提示すべきです。また、メンバーなら仮にタスクで振られても、

「それは、◯◯(誰)にとって、◯◯できるような(課題)資料だと考えられるので、◯◯(主要な指標)で価値を計測しながら進めていきます」

とサービスとして置き直し、その仕事の価値を価値の有る無しにかかわらず、短い期間で提示しつつその評価を受けるべきです。エリック・リース著「リーン・スタートアップ」にもあるように、組織内で新規のビジネスや事業、またはプロジェクトに携わる者をイントレプレナーと呼び、その存在や働き方が重要視され始めています。相対的に見れば小さく些細にも見えるような資料作成といった仕事でさえも、視点を変えるだけで、さらなるモチベーションと価値を突き詰めていけると思います。そうして積み上げた小さいたくさんの価値が、最終的に価値あるビジネスを形成していくのではないかと感じています。正しく仕事を始め、本当に価値あるものだけを全力で取り組く組織にしていきましょう。

業務改善としてのリーンスタートアップ

私はあるウェブサービス関連企業の開発部門にいます。その中でも、サーバやミドルウェア(ウェブサイトやウェブアプリケーションの基礎となるようなソフトウェア群)を管理する部署で、データベースと呼ばれるミドルウェアの構築ならびに監視、また関連した相談を受ける業務をしています。しかし日々仕事に追われると、「この仕事が結局誰にとってのどんな価値があるのか」ということを忘れがちだということに気がつきました。しかもそれは私や私の所属するチームに限った話ではなく、どのチームにもどの企業にも存在するようでした。タスク(作業)として指示を受けたから、または慣例や伝統だからといって行われる仕事も、決して少なくないように思います。また、巨大で変更困難なビジネスワークフローが、仕事の質を著しく低下させ、回り道による大きな無駄を発生させています。左から回ってきた仕事を、時代遅れのツールを使ってこなし、右に回す。結局誰一人、この仕事が誰にとってのどんな価値があるのか分からないままフローを流れ、最後にはなぜ自分がこの仕事を受け取ったのか分からない人によって、デスクトップのゴミ箱に納品されるなんていうのも、冗談のような本当の話として、あらゆる組織に点在している気がしています。昔あった某派遣サービスのCMのように、チャイコフスキーの"弦楽セレナード ハ長調 作品48 第一楽章"が流れてきてもおかしくありません。でも、働くというのはもっと強烈なやりがいや開放感があるものじゃないでしょうか?

自分にとっての顧客という存在

そんな中、リーンスタートアップと出会いました。リーンスタートアップとは、新しいサービスや製品、事業を始める人にとっての無駄なく効率的に進めるための方法論です。早い段階から顧客とプロダクトを介して接触し、定量的なフィードバックを得ながら改善を加える、このループを短い期間で進めることで、最適解に無駄なく最速で進むことが出来るというものです。創始者のエリックリース氏も言うように、リーンスタートアップはスタートアップだけでなく、大企業といった既存組織内でも活用可能なものです。ですが私は「これは自分たちのチームにも活用可能だ」とも感じました。つまり、新規のサービスや新製品に携わる人たちだけでなく、業務改善としても活用可能だと思ったのです。実際、既存業務をあたかもウェブサービスのように整理し展開することで、劇的な業務改善効果がありました。ウェブのインターフェースを作ることで、自分たちにとってもまた顧客にとってもこの業務(サービス)が一体何なのかはっきり分かり、強固なインターフェースによってどれだけ利用があるのか、どれだけ顧客がいるのか、いとも簡単に計測出来るようになりました。なにより顧客が誰なのかはっきりするので、メンバーのモチベーションが非常に高いのです。リーンスタートアップのいうように、顧客として相手を捉え、定量的なフィードバックをもとに改善する、これこそが無駄なく効果的で、モチベーション高く仕事をする方法だと思いました。

業務改善としてのリーンスタートアップ

既存のタスク群を如何にサービスやプロダクトとして捉えるのか、プロダクトの価値や成長を如何に評価するのか等々、既存の方法や考え方ではまだまだ当てはまらない部分が多々有ります。そこで業務改善としてのリーンスタートアップの可能性、考え方や手法を体系的にまとめ、広くお伝えできたらと思います。